
イタリアンバーニャカウダ — ピエモンテのアンチョビ・ニンニク温ディップ
バーニャカウダ — ピエモンテの方言で「熱い風呂」 — は、オリーブオイルとにんにく、アンチョビをゆっくり溶かし合わせた温かいディップで、北イタリアの食卓の賑わいそのものです。とろりとひとつにまとまったソースを、テラコッタのフジョットに入れてろうそくの火で温め続け、その周りに生の野菜と火を通した野菜、皮の硬いパンを並べて浸しながら食べます。起源は中世のピエモンテ。プロヴァンスやニースから塩とアンチョビを内陸の谷へ運んだ塩の道(ストラーダ・サリス)が、海から遠いこの土地に塩蔵魚の料理を根づかせました。2005年にはイタリア料理アカデミーのアスティ支部が、コスティリオーレ・ダスティで公証人を立てて正式にレシピを登録しています。毎年11月から12月にかけて、アスティではバーニャカウダの祭りが開かれます。ここで紹介するのは家庭向けに整えた配合で、にんにくは牛乳で下ゆでして角を取り、塩漬けのアンチョビでこくを出し、最後にバターを落としてなめらかに仕上げます。実働25分、牛乳でゆでる時間が15分。約300mlでき、大皿の中心に据えて6人分です。
材料
- 60 gニンニク
- 250 ml全乳
- 80 gアンチョビフィレ
- 200 mlエキストラバージンオリーブオイル
- 30 g無塩バター
- 1 大さじクルミ油
- 1 ひとつまみ塩
作り方
- にんにくを下ごしらえする。にんにく60g(15-18片、中くらいの玉で2個分)の皮をむく。1片ずつ縦半分に切り、中心の緑色の芽をナイフの先で取り除く。ここは省けない。芽には苦みが残り、火を通しても刺すような後味が消えない。芽を取ったら薄切りにして、牛乳で煮るときに均一に柔らかくなるようにする。2005年にアスティで登録された公式のレシピにも、芽を取ることがはっきり書かれている。
- にんにくを牛乳で煮る。薄切りにしたにんにくを小鍋に入れ、全乳250mlをかぶるまで注ぐ。ごく弱火にかけ、ふつふつする手前で保つ。煮立てないこと。ときどき混ぜながら15-20分、フォークでつぶせるほど柔らかくなり、牛乳が少しとろむまで煮る。にんにくをこして牛乳は捨てる(スープの下地に取っておいてもよい)。この一手間で刺激が消え、にんにくが甘くなる。省くとアスティの原典に近い、にんにくの香りが真正面から来る味になる。
- アンチョビを下ごしらえする。塩漬け(チェターラやレッカ、スペインの赤アンチョビが理想)を使うなら、フィレ80gを冷水でさっと洗い、赤ワインに5分浸してから水気をふく。ワインで洗うのはピエモンテの昔からのやり方で、水よりきれいに塩気が抜け、香りにも奥行きが出る。フィレを開き、尾のほうから指で中骨を引き抜く。オイル漬けを使うなら、良質なもの80gをペーパーで押さえて油を切るだけでよい。塩漬けは値は張るが、味の深さと溶け方がまるで違う。
- 冷たい油から煮出しはじめる。牛乳で煮たにんにくと下ごしらえしたアンチョビを、厚手の小鍋かフジョットに入れる。エキストラバージンオリーブオイル200mlを、瓶から冷たいまま注ぐ。ごく弱火にかける。本当にごく弱火で、にんにくの周りに泡がいくつか見える程度。じゅうじゅう音を立てたら火が強すぎる。アスティの公式レシピにも「弱火で、揚げないように注意して煮る」と明記されている。冷たい油から始めるのは絶対で、熱い油に入れればにんにくが焦げて台無しになる。
- 20-25分かけて静かに煮る。ごく弱火のまま20-25分、2-3分おきに木べらで混ぜる。アンチョビは油の中で完全に溶けていく。はじめは形が残っているが、10分で崩れ、20分もすればどこにも見えなくなり、香りのよい下地になる。にんにくはさらに柔らかくなるが、決して色をつけないこと。少しでも色づいたらすぐ火を弱めるか、鍋を火から離す。ばらばらだったアンチョビの粒が、しだいに均一で香ばしい黄金色のソースへ変わっていく。
- バターで仕上げる(なくてもよいが、あったほうがよい)。火を止め、温かいソースに冷たい無塩バター30gとくるみ油大さじ1を加える。木べらでゆっくり混ぜ、バターが溶けてなじむまで。冷たいバターを温かい油に含ませるので、必ず火を止めてから入れること。バターでビロードのような口当たりになり、くるみ油がピエモンテらしい香ばしさを添える。もっとなめらかにしたければ、バターのあとに卵黄1個を火から下ろしたまま混ぜ込む。公式のレシピでも卵黄は任意の材料として挙げられている。
- 味をみて整える。塩はアンチョビの塩気が足りないときだけ、ひとつまみ。ふつうは何も足さなくてよい。仕上がりはペーストではなく、とろりとした温かい液体で、にんにくのかけらと溶けたアンチョビが見える状態。濃すぎればオイルを大さじ1-2足し、緩ければ蓋をせずごく弱火で2分だけ煮つめる。木べらにまとわりつき、ゆっくり落ちるくらいが目安。
- 温かいまま、すぐに出す。フジョット(ろうそくで温めるピエモンテのテラコッタの器)か、アルコールランプ付きのフォンデュ鍋に移す。バーニャカウダは食事のあいだずっと55-65°Cに保つ必要があり、冷めるとソースが分離して香りも飛んでしまう。食卓の中央に置き、季節の野菜を大皿で囲む。生のカルドン、赤パプリカの細切り、フェンネル、セロリ、にんじん、ラディッキオ、サボイキャベツの葉、ゆでたじゃがいも、くし形に焼いた玉ねぎ、揚げたポレンタの角切り。皮の硬いパンも添える。合わせるのはピエモンテの赤、バルベーラ・ダスティ、ドルチェット、ネッビオーロ。
よくある質問
バーニャカウダはピエモンテの方言で「熱い風呂」という意味で、オリーブオイル、にんにく、アンチョビをゆっくり煮出してひとつにまとめた温かいディップです。ろうそくで温めるテラコッタの器フジョットに入れて食卓の中央に置き、生や火を通した野菜とパンを浸しながら囲みます。フォンデュに似た賑やかな食べ方ですが、土台はオリーブオイルです。中世のピエモンテが起源で、プロヴァンスとニースから塩とアンチョビを内陸へ運んだ塩の道と結びついた、質素な農民の料理でした。2005年にイタリア料理アカデミーのアスティ支部が公証人を立ててレシピを登録しています。ほかのアンチョビのソースとは性質が違います。ピエモンテのサルサ・ヴェルデはパセリ、アンチョビ、ケッパー、パンを刻んで合わせた冷たい生のソースで、ゆで肉に添えるもの。プロヴァンスのアンショワイヤードは近い親戚ですが、にんにくを長く煮出さずに練り合わせ、フジョットで温める作法もありません。バーニャカウダを決めているのは、温かい油の風呂であること、にんにくとアンチョビを油に溶かし込むこと、そして温め続けて囲む作法です。
生のにんにくを大量に使うので(公式のレシピは1人1玉です)、そのままでは刺激が強く、胃にもたれると感じる方が多いはずです。角を取る方法は三つあります。一番おすすめは牛乳で煮ること。薄切りにしたにんにくを全乳250mlに入れ、ごく弱火で20分、柔らかくなるまで煮ます。牛乳の乳たんぱくが刺激をやわらげ、ゆでたじゃがいものように甘く穏やかになります。煮たあとは牛乳を捨ててから油で煮出してください。乳製品を使いたくなければ、水で5-10分ゆでて湯を替え、これを三度繰り返す方法でも刺激成分がかなり抜けます。効きめは牛乳より穏やかです。そして何より、中心の緑の芽を必ず取ること。これはどの流儀でも一致しています。芽には苦みと後を引く匂いが残るので、半分に切ってナイフの先ではずしてください。加えて、冷たい油から始めてゆっくり温めることも大事です。熱い油に入れれば焦げ、焦げれば苦くなります。まるごと180°Cで40分焼いたにんにくを一部混ぜると、甘く香ばしい方向にも振れます。家庭で作るなら、牛乳での下ゆで、芽の除去、冷たい油からの煮出しを組み合わせるのが一番失敗しません。
何を浸すかで印象が決まります。生で添える定番は、ニッツァ・モンフェッラートのカルドン、四つ割りにした春の玉ねぎ、サボイキャベツの葉、菊芋、フェンネル、赤パプリカの細切り、キオッジャ種や赤いビーツの薄切り、トレヴィーゾのラディッキオ、カリフラワー、甘みのあるにんじん、セロリ。火を通すなら、皮をむいて温かいうちのゆでじゃがいも、皮ごと焼いてくし形にした玉ねぎ、ゆでたビーツ、焼いたかぼちゃ、ゆでたカルドン、焼いた菊芋。揚げ物では、揚げたポレンタの角切りが昔からの定番です。パンは必ず皮の硬い素朴なイタリアのもの。チャバッタ、フォカッチャ、パーネ・カゼレッチョを薄く切り、軽く焼き目をつけると香りが立ちます。向かないのは、柔らかすぎるアボカド、水っぽいきゅうり、酸味がにんにくとぶつかるトマト、浸しにくい生のブロッコリーや葉物のサラダです。盛りつけは、中央のフジョットを囲むように大きな木や陶器の皿へ、色と食感を混ぜて並べます。合わせる酒はピエモンテの辛口の赤、バルベーラ・ダスティ、ドルチェット、ネッビオーロ。にんにくとアンチョビと油の強さをきれいに受け止めてくれます。
最後まで温めておくことが絶対の条件です。冷めるとにんにくとアンチョビが分離し、香りが鈍って、固まってしまいます。伝統的な器はフジョットで、150mlほどのテラコッタか銅の小鍋の下にろうそくやアルコールランプを置くもの。1-2人にひとつ用意します。イタリアの家庭用品店やネットで20-40ユーロほどです。食卓全体でひとつの大鍋を囲むディアンという器もありますが、炭火の受け皿が要るので店向きです。家庭で手軽なのはアルコールランプ付きのフォンデュ鍋で、チーズ用でも肉用でも構いません。大事なのは60-70°Cを保てることです。ろうそく用の保温プレートなら10-20ユーロで手に入りますし、大きめのボウルに湯を張って器を浮かべ、30分ごとに湯を替える方法でも足ります。保温機能付きの電気鍋も使えます。うまくいかないのは、小さなティーライト1本だけで大きな鍋を温めようとすること、電子レンジで温め直すこと、電気コンロで直接加熱することです。いずれも分離するか底が焦げます。ちょうどよい温度は55-65°C。油は液体のまま香りが立ち、口に入れて熱すぎない。かすかに湯気が立つが煮立ってはいない、という状態を保ってください。
たいてい多めに作る料理なので余りますが、この残りが本当に使えます。密閉したガラス瓶に入れて冷蔵で5-7日もちます。冷えると固まりますが、これは正常です。小分けにすれば冷凍で1か月まで保存できます。ただし解凍後は少しざらつきます。温め直しは必ず湯せんで、絶えず混ぜながらごく弱火で。電子レンジは分離するので使わないでください。もし分かれてしまったら、冷たいバターを小さじ1加えて手早く混ぜるとたいてい戻ります。使い道はいくらでもあります。一番有名なのは卵で、フライパンに残ったソースへ卵を2-3個割り入れてスクランブルやフリッタータにします。ゆでたスパゲッティ200gに大さじ4-5をゆで汁と一緒にからめれば、それだけでピエモンテ風のパスタ。ポレンタにかけてパンチェッタやタレッジョをのせるのも土地らしい食べ方です。赤ワインビネガー大さじ2とオリーブオイル大さじ2でのばせばサラダのドレッシングになり、焼き上がりの野菜や肉に回しかければ一気に味が決まります。パンを角切りにして残った油をまとわせ、180°Cで5分焼けば香ばしいクルトンに。器の底にたまる濃い部分は、トーストに塗るだけでごちそうです。ピエモンテには「バーニャカウダは翌日のほうがうまい」という言い回しがあります。にんにくとアンチョビがさらになじむからです。
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