レバノン料理とは、地中海と山にはさまれた細長い海岸の国の料理です。レバノンの外でも、多くの人が出どころを知らないまま、いくつかの料理はすでに知っています。フムス、ファラフェル、シャワルマ、タブーリがそうです。土台になるのはオリーブオイル、レモン、にんにく、パセリ、ひよこ豆、ごまペースト(タヒニ)、ブルグル。食卓の形はメゼで、前菜のあとにメインが出るのではなく、小皿料理がいっせいに並び、みんなで取り分けます。
大事なのは、どのレシピよりもこの後半のほうです。レバノンの食事は、人と一緒に、ゆっくり、カトラリーの代わりにパンで食べるようにできています。下に挙げる料理のうち三品を作って同時に食卓に並べれば、それはもうレバノンの食事です。一品だけなら、ただの付け合わせです。
メゼは料理の名前ではなく、出し方のこと
メゼという言葉は、メインの前や横に、あるいはメインの代わりに並ぶ小さなもの全部を指します。ディップ、サラダ、ピクルス、生野菜、揚げ物、オリーブの小皿。レバノンのレストランでは、フルコースのメゼが三十皿になることもあります。家庭ではたいてい五、六皿で、誰も数えてはいません。
家で無理なく組むなら、クリーミーなもの、緑で酸味のあるもの、熱いもの、すくって食べるためのもの、の四つをそろえます。一つめはフムス、二つめはタブーリ。揚げたてのファラフェルが三つめで、温かいピタパンが四つめです。この四つめだけは省けません。
昔ながらの飲み物はアラク。ぶどうから作る、アニスの香りの透明な蒸留酒です。氷の上に注ぎ、およそ倍量の水で割ると、水が入った瞬間に白く濁ります。一気にあおるものではなく、食事のあいだずっと少しずつ飲みます。メゼが三時間続くことがあるのも、ひとつはそのせいです。
よく混同される三つのディップ
フムスは、ひよこ豆をタヒニ、レモン、にんにくと一緒になめらかにしたものです。出来はほぼ食感で決まります。スプーンの背でうずを描くように広げられるくらいなめらかであるべきで、そこまで持っていくのは、撹拌しながら加える氷水です。この料理はレバノンとイスラエルが数年にわたって「どちらのものか」を争い、その争いはギネス世界記録にまで行き着きました。2010年5月8日、ベイルートでおよそ三百人の料理人が、重さ10,452キログラムのフムスを一皿で作っています。
名前がややこしくなるのは、なすのディップです。レバノンでは、焼いたなすをタヒニ、レモン、にんにくと練り合わせたなめらかなものを、ふつうムタッバルと呼びます。家庭でババガヌーシュといえば、同じ燻したなすにトマト、玉ねぎ、ざくろ糖蜜を合わせた、ごろっとしたサラダのことが多く、タヒニは入りません。レバント地方の外では二つの名前が同じ料理に使われていて、当サイトのババガヌーシュは、多くの読者がこの名前で知っているタヒニ入りのほうです。どちらにも共通するのは火です。なすは皮が真っ黒になってしぼむまで焼くこと。そうしないと、ゆでた野菜の味になります。
赤いディップがムハンマラで、焼いた赤パプリカとくるみに、ざくろ糖蜜で酸味をきかせたものです。生まれはレバノンではなくシリアのアレッポですが、ベイルートのメゼの卓にはほぼ必ずあり、フムスに飽きた人がまず手を伸ばすディップです。
タブーリはパセリのサラダ
レバノン料理が国外でいちばんよく間違えられるのがここです。タブーリは、ハーブを混ぜた穀物のサラダではありません。細かいブルグルが少しだけ入った、ハーブのサラダです。目安は刻んだパセリ四に対してブルグル一。正しく作ると鮮やかな緑色で、レモンとオイルでしっとりしていて、レタスの葉で包むか、パンですくって食べます。
パセリは乾いた状態で、よく切れる包丁を使って手で刻みます。みじん切りにするのではなく、細く切っていく感じです。フードプロセッサーにかけるとパセリがつぶれて黒っぽいペーストになり、新鮮なハーブの味がするタブーリと、刈った芝生の味がするタブーリの差はそこで生まれます。レバノンではこれが真剣に受け止められていて、2001年から毎年7月の第1土曜日を「タブーリの日」としています。
にんにく、レモン、そして形を保つソース
いちばん驚かれるソースがトゥームです。材料はにんにく、レモン、塩、くせのない油だけ。卵は入りません。それなのに、スプーンが立つほど白く固く泡立ちます。コツは根気です。機械を回したまま油を細く垂らし、レモン汁と交互に加えていきます。注ぐのが速すぎると乳化が壊れて、ただのにんにく油になります。
味はかなり強烈です。グリルしたチキンの横にひとさじあれば十分で、レバノンのチキンシャワルマがあの味になるのはこのソースのおかげです。レバノンのシャワルマ屋には、家庭でもそのまま借りられる決まりがあります。チキンにはトゥームとピクルス、牛肉と羊肉にはタヒニソース。タヒニソースのほうはもっと簡単で、ごまペーストを水、レモン、にんにくでのばし、とろりと流れるくらいにするだけです。
焼いた肉と七つのスパイス
レバノン料理の肉はほとんどがグリルで、ほとんどが羊肉か鶏肉です。コフタとシシケバブが基本の二つの形を見せてくれます。ひき肉に玉ねぎとパセリを混ぜて平たい串に押しつけるか、下味をつけた角切り肉をそのまま串に刺すか。どちらも強い直火で焼き、中心がまだピンクのうちに火から下ろします。
レバノンの肉料理の温かみは、唐辛子から来ることはあまりありません。来るのはセブンスパイス(七種のスパイスのミックス)です。オールスパイス、黒こしょう、シナモン、クローブ、ナツメグ、コリアンダー、そして家ごとに変わるもう一つ。フェヌグリークかしょうがであることが多いです。主役はオールスパイスで、レバノンのケバブがほんのり甘く香るのはそのためです。ミックスが手元になければ、オールスパイスにシナモンをひとつまみ足せば、かなり近づきます。
ファラフェルは乾燥ひよこ豆から
ファラフェルは、手抜きがすべてを台なしにする料理です。缶詰ではなく、ひと晩水に浸けた乾燥ひよこ豆から始めなければいけません。加熱済みのひよこ豆は水分が多すぎて、油の中でばらばらになります。そこでつなぎに小麦粉を足すと、中がペースト状になってしまいます。浸けただけの生のひよこ豆を玉ねぎ、パセリ、コリアンダー、クミンと一緒に挽けば、それだけでまとまり、外はカリッと、中は緑色に揚がります。
レバノンのサンドイッチでは、ファラフェルを薄いパンに、タヒニソース、トマト、パセリ、かぶのピクルス、ラディッシュと一緒に包みます。家なら、同じものを皿に並べて温かいピタパンを添えれば、それで夕食になります。
ラブネと朝の食卓
ラブネは、ヨーグルトに塩をしてひと晩水切りし、塗れるくらいまで固くしたものです。レバノンの朝食では、浅い器に入れて上にオリーブオイルをたっぷり張り、オリーブ、きゅうり、トマト、ミント、それにザアタル(タイム、スーマック、ごまのミックス)の小皿と並べます。パンをちぎってラブネをぬぐい、オイルをくぐらせ、ザアタルをつけて食べます。当サイトのレシピは、冷たいラブネに熱々の焼きトマトをかけるもので、伝統的な食べ方ではありませんが、冷たくクリーミーな土台に温かく酸味のあるトッピングを合わせる、という考え方は同じです。
クナーファは朝ごはんにもなる
レバノンでいちばん知られた甘いものがクナーファです。くせのない白いチーズを細い麺状の生地ではさみ、きつね色に焼いて、オレンジフラワーウォーターで香りをつけたシロップを染みこませます。チーズがまだ伸びるうちに、熱々で食べます。レバノンでは朝にも食べ、切れ目を入れたごまパンにサンドイッチのように詰めます。塩気のあるチーズ、カリッとした生地、甘いシロップがひと口に入るのは奇妙に聞こえますが、食べてみるまでの話です。
中東の外で手に入りにくいのがチーズです。伝統的なのはアッカーウィで、塩気が強いので先に水に浸けて塩を抜きます。モッツァレラと混ぜると、風味を失わずに伸びが出ます。
食卓への並べ方
全部をいっぺんに出します。ディップは浅い器に入れ、スプーンで真ん中にくぼみを作ってオリーブオイルを注ぎます。パンは温かく、たっぷりと。パンが食器の役目です。生野菜は丸ごとか大きめに切って脇に置きます。きゅうり、ラディッシュ、くし形のトマト、ミントの束。焼いた肉は出すとしても最後で、冷たい皿がほぼ片づいたころに出てきます。
家で初めてレバノン料理の夕食を作るなら、フムスとトゥームは前日に作っておきましょう。どちらも冷蔵庫でひと晩置くとおいしくなります。当日、タブーリは最後、出す直前に作ります。パセリはレモンと合わせて一時間もすると歯ざわりがなくなるからです。















